20.02.26

技術情報

軟磁性材料 (英語:Soft magnetic material)

軟磁性材料(英語:Soft magnetic material)
複雑形状での高精度な加工事例紹介はコチラ

概要:
磁力を保持する力が小さく、透磁性が大きい材料のことを軟磁性材料(軟質磁性体)と呼びます。
軟磁性材料は磁場の影響下では強く磁化されますが、磁場が存在しない場合は磁力を持たない性質を持ち、多くの業界で利用される付加価値の高い材料です。

用途・特徴:
軟磁性材料の部品は主に家電機器やコンピューター関連の事務機器、あるいは一般産業機器部品として採用されており、現在では各種空油圧機器、自動車エンジンの燃料噴射装置の電磁弁をはじめとして、ソレノイドコア、インジェクタコア、プランジャー、トルクセンサコア、各種センサー等、さまざまな用途で用いられています。

特に軟磁性部品の中でも、高精度や微細形状を要求される部品の多くは、現状切削加工や粉末冶金法を用いて製作されていますが、課題も数多く存在しています。
そこで太盛工業ではMIMによる磁性部品の製造研究に取り組み、実用化に至る所まで漕ぎ着けることができました(2008年:経済産業省 戦略的基盤技術高度化支援事業 採択、2011年高度実用化)。

メリット:
MIM技術の特徴である小型化や複雑形状への対応、大ロットへの対応、高い材料歩留まり性を活かした形で、ネットシェイプでの軟磁性部品 製造へ応用することができ、軟磁性部品を高精度で製作可能です。
特に機械加工で課題となる磁気歪を気にする事なく加工が可能ですので、磁気焼鈍時に起こりやすい薄肉・軸形状等での変形が起こりません。
フェライト系ステンレスからFe3Si、パーマロイといった材質まで製造可能で、
切削加工と比較すると、形状や数量によりますが1/10まで製品1個当たりのコストを下げることも可能です。

【MIM技術での磁性材料の特長】

  • 複雑形状が可能(設計の自由度が大)
  • 高寸法精度
  • 量産性

【主な適応材料・種類

  • SUS410L(フェライト系ステンレス、耐食性、高電気抵抗)
  • Fe-Ni(パーマロイ、高透磁率、高磁束密度、高抵抗、低周波数、低保磁力)
  • Fe-3%Si(高磁束密度、高周波数、低保磁力)
  • Fe-Co(パーメンジュール、最大飽和磁束密度)
保磁力 最大比透磁率 磁束密度 最大磁束密度
Hc(A/m) μm(10^3) B(T) Bs(T)
SUS410L 160 2.0 1.08 1.29
Fe-3%Si 20~130 4.5~13 1.66~1.75 1.92~2.12
Fe-Ni(PB) 6.4 19.0 1.5 1.5
フェライト系ステンレス鋼材
材料記号 C Si Mn P S Ni Cr Mo Cu N その他
SUS410L 0.03
以下
1.00
以下
1.00
以下
0.040
以下
0.030
以下
   – 11.00
~13.50
材料特性 / 特徴
比重(g/cm3) 硬度(Hv) 引張強さ(N/mm2) 13Cr-低Cタイプの組成で、よりCを低くすることで耐高温酸化性に優れる、軟磁性ステンレス鋼材です。
7.93 200以下 360 以上
用途:OA機器部品電子機器部品 等
国外対応規格: -

フェライト生成元素であるCr、Mo、Siなどが適度に調整されているためフェライト系は熱処理を行ってもマルテンサイト
のように硬化はせず、高温下でもフェライトのまま存在するので、すべての状態で磁性を持ちます。

マルテンサイト系よりもクロムの含有比率が高く、比較的耐食性に優れます。
溶接性もそこそこあり、また軟質で延性に富んだ材料です。

またオーステナイト系に比べて熱膨張係数が小さく、ニッケルを含まない鋼種のため、硫黄(S)を含む
ガスに対して耐高温腐食性が優れ、溶接性も悪くないので、800℃までの炉部品や化学設備にも利用されます。

Fe-Ni系合金

パーマロイ (英語: permalloy) はNi-Feの合金で初透磁率を大きくすることを目的に作られたニッケルを35~80%含む合金で、permeability(透磁率)+alloy(合金)からパーマロイと呼ばれ、微少な磁場の変化に対して容易に応答することから多くの電磁弁や磁気ヘッド用途として用いられる。
更に銅、クロム、モリブデンなどを添加することで、磁気特性の調整が可能です。


Fe-Si系合金     

鉄-シリコン系:FeにSiを添加することで、純Feと比べて保磁力が小さく、電気抵抗が大きくなる事から鉄損が少なく,軟磁性材料として優れる事が知られています。しかしながら材質が硬く、脆くなることから加工性が悪化するため機械加工での取扱は困難になります。
そこで、粉末ベースから最終形状部品の生産が可能となるMIMでの生産が期待されています。また磁性特性を損なわずに、弱点である強度・耐食性を補うための表面改質や複合化・微量添加元素などの開発も盛んに行われています。

Fe-Co系合金

パーメンジュール(permendur)は鉄とコバルトを1:1となるように合金化させた軟磁性材で、もっとも高い磁束密度を得られることが最大の特徴です。これにより、
電子顕微鏡などの磁界レンズや、高い信頼性の要求される最新のプリンタヘッド、リニアパルスモータなどに利用されています。しかしながら磁気焼鈍時の脆化や変形が起こりやすく通常の機械加工⇒熱処理という工法では複雑形状部品や薄肉加工、精度の確保は困難な材質となります。それらの課題克服に向けてMIMでの生産を検討されるケースが多いです。

製品事例・用途例はコチラ!

・燃料噴射用電磁弁(インジェクタ)・ソレノイド・磁気ヘッド・継電機・リレー・プランジャ・スピードメーター・各種センサー類

家電やPC関連の事務機器、一般的な産業機器部品でもコイルの素材などとして使用されている他、パワートレインの電動化に加え自動運転、コネクテッドカー化など、大きな技術革新が行われようとする自動車産業では特に制御系からセンサ系まで多種多様の軟磁性材の利用が増加傾向です。
ロボット産業・AI化などに伴う制御系の発達により今後ますます幅広い用途で高性能化・小型化・高精度化・複雑形状化が進んでいます。
太盛工業のμ-MIM技術ではそれらのニーズに答えるべく、日々新しい開発を続けています。

その他の軟磁性材料、新規の合金系・複合化に関しても是非お問い合わせください